信濃毎日新聞 2005/09/05掲載
今年、飯田市及び下伊那郡の小・中学校を回る「巡回科学実験教室」は7年目に入った。
これは飯田市教育委員会が組織した自主的な科学教育ボランティア「おもしろ科学工房」の活動で、メンバーは現在45人。
その半数は主婦で、ほかに現役やリタイアした学校教諭、市職員、企業の技術者、学生などがいる。
学校の「理科」や「総合学習」の一環として位置付けられ、ふだんの授業ではなかなかできない大掛かりな面白い実験や不思議な実験を一人一人の生徒が体験し工作できるようになっている。
飯田市教育委員会によれば、昨年までの六年間で教室は643回開かれ、延べ2万9200人が参加した。
月曜日から金曜日まで、スタッフは交代で学校に行き、準備し、実験する。これまで一度の欠講も事故もない。
それは教育委員会、学校、家庭、地域社会が一体となって、子どもの教育の大切さを理解し
心を一つにして当たっているからだと思う。
また「かざこし子どもの森公園」で毎週土・日曜日に行われる「理科実験ミュージアム」の親子実験教室も
過去三年間で2万人余もの親子が実験に参加し、中には40回以上も訪れる方もいる。
今年も夏休み特集として「カメラを作り、撮影・現像しよう」というテーマで実験を行った。
自作のカメラで撮影、現像し、写真ができたときの子どもたちの感動する様子を見るのは、われわれスタッフにとっても喜びである。
このように連日学校の授業や公園での親子教室を行っていることは
地域社会に深く根づいた教育活動として、全国的にもかなり珍しい取り組みと言える。
こうした活動を子どもたちのために、長野県全域、さらには日本全国に広めたいと私は願っている。
この活動を支えている大きな力は、40代の母親たちである。
計画、実験準備、後片付け、物品の補充など実に的確にこなしてくれる、そのパワーには驚くほかない。
誰もが進んで困難な仕事を引き受け、いつもにこやかに、生徒たちの中に溶け込んで指導する。
数十種類の実験にも精通し、講師とともに、数十キロ離れた山の中の学校にも必ず何人か駆けつける。
母親を中心としたスタッフたちの力の源は、子どもたちへの深い愛情である。
おそらくそれは、飯田下伊那地方にしかないものではあるまい。
とすれば、私の願いは決して実現不可能な夢物語ではないはずである。
※ この記事は信濃毎日新聞社様のご協力をいただいて掲載しています