子どもの喜び支える存在に

信濃毎日新聞 2004/12/27掲載

秋も深まった11月下旬、伊那市の伊那東小学校の五年生32人が
担任の若い男の先生とともに「かざこし子どもの森公園」の「おいで館」を訪れた。
彼らは「おもちゃ作り」を総合学習として取り上げ、ここにやってきたのである。

まずブーメランを作った。
先生は一人一人の児童を回り、助言し、励ました。
ある児童が大変よく手元に戻るブーメランを作った。先生はその子に何か助言を与えた。
やがてそのブーメランは二回大きく回転して手元に戻るようになった。

この子はわれわれが至難と思われる業を成し遂げて楽しんでいる。

次に傘袋で飛ぶ「風船ロケット」を作った。
皆が自作のブーメランと風船ロケットを持って外に出て、広い公園で飛ばした。
一人のブーメランが「おいで館」の屋根の上に飛んだ。

先生は脚立を持ち出し、棒を手にしたが届かない。
皆の注目の中、先生は一人の男の子を軽々と肩車し、彼に棒を持たせ、脚立の上に立った。
ブーメランは舞い下り、歓声が上がった。
このクラスが一つにまとまっている様子に感動した。

木陰で昼食後、「おいで館」に戻り万華鏡を作った。
生徒たちは一人一人違う形の美しい万華鏡を見せ合っては楽しそうな表情を見せていた。
帰り際「来年も必ず来るね」と手を振る子どもたち。
われわれにも何とも清々しい気分が残った。
翌日、速達で届けられた児童全員の感想文には、それぞれに大きな喜びがつづられていた。

その授業からまもなく、経済協力開発機構(OECD)の調査で
日本の子どもたちの学力が低下しているとされ、大きな話題になった。
これは、子どもたちの近くにいる大人の存在も少なからず影響しているのではないか―――。
印象深い授業の後だっただけに、そう思った。

例えばあの先生のように、子ども一人一人に深い「思いやり」を持った人(これこそ教育の原点と思うのだが)がもっとたくさんいれば
言われて久しい「理科離れ」という状況も変わってくるのではないだろうか。

われわれの「理科実験ミュージアム」も、訪れてくる子どもたちの意欲や喜びを支えていける存在であり続けたい、との思いを新たにした。

※ この記事は信濃毎日新聞社様のご協力をいただいて掲載しています。

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