長野県立飯田高校2年F組のみなさんへ・・・後藤道夫

皆さん今日は、私は永い間皆さんとお会いできる日を楽しみにしておりました。
この伝統ある飯田市の高校で、こうした授業ができることは、私の大きな望みでした。
それは私が飯田市生まれ、10年間生活したふるさとであり、どこにいても瞼に浮かぶその懐かしい思い出は
80才になった今も生き生きと心の中に生きているからです。
親の仕事の都合で10才から東京に移り、70年間は東京で暮らし、大学を卒業してからも、長く東京の高校や大学で物理を教えておりました。
10年前70才のとき、飯田市教育委員会に相談して
科学教育ボランティア「おもしろ科学工房」を立ち上げたところ、地域の熱心な方々が応募してくださり
現在50名もの方々が、市内及び下伊那郡の子どもたち対象に「かざこし子どもの森公園」で
「理科実験ミュージアム」を開催しております。
また小・中学校に対しても「巡回科学実験教室」を行い、いままで9年間に850教室を回りました。
今日もここに「おもしろ科学工房」の二人のリーダー、がみえておられます。
今日の授業や実験の準備と今日行う実験のお手伝いなどもして下さいます。
ところで今日の授業の内容ですが、私がここ数年間に受けた4つの科学上の感動について皆さんに伝え
考えて頂きたいと思っております。
ただ一回の授業でそれら全部を伝えることは不可能ですので、あとは私が読書し、研究し、実験するために
身近に集めた多くの資料や書籍などを利用して皆さん方独自に読書し、研究して頂きたいものと思っております。

1.ガリレオの「星界の報告」を読んで、望遠鏡でガリレオ衛星を観測する。

数年前、岩波文庫のこの小冊子を読んだとき、私は大きな感動をおぼえました。
レンズを通る光の理論を考えて優れた望遠鏡を自作し、それで夜の天体や昼の太陽の観測を始めたガリレオ
この本の中で、科学の探検の喜びや科学の不思議さに対する驚異を率直に語っています。
私が最も感動したのは1610年1月から3月までの冬の寒い真夜中に、毎日外に出て木星を観測し
その4つの衛星の動きを毎日スケッチした記述です。
私が飯田での宿舎としている飯田東中学校の前にある教員住宅から、小さな望遠鏡を持ち出して、
飯田東中学校の校庭に設置し、夏の夜などに、毎日木星を観察しました。
夜10時頃、木星は黄道にそった軌道に明るく光っていました。
4個のガリレオ衛星は400年前と変わらず木星の回りを規則正しく回り、毎日その位置を変えました。
私もガリレオの気持ちを考えながら、地動説の確かさを目にして、その観察に飽きることがありませんでした。
今年の理科年表や天文年鑑などには、毎日の木星の衛星の位置が記載されていますので、容易に観察が出来ます。
一度一緒に観察してみませんか。

2.宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」

宮沢賢治は宇宙や星を愛し,天の川銀河やさそり座やアンドロメダ星雲などを、その多くの作品に取り入れており
北極星を巡る「星巡りの歌」なども作詞・作曲しています。
何と、火星と木星の間の小惑星群の中の、小惑星5008番は「ミヤザワケンジ」と命名され
毎日地球を回っているのです。賢治は星になったのです。
2年前、文芸春秋特集「代表的日本人100人」として、聖徳太子から司馬遼太郎など日本人を代表して
多くの人々から愛されている100人の中に、宮沢賢治が選ばれており
アメリカの劇作家で東京工業大学教授のロジャー・パルバースさんが
日本の作家で最高は宮沢賢治で、その最高傑作「銀河鉄道の夜」を英訳したと書いてあるのを見て
私もそれを手にしてみました。
それから彼の作品とその生きかたに魅せられ、「注文の多い料理店」など、賢治の名作を次々と読んでみました。
岸田今日子の朗読する「銀河鉄道の夜」のCDも何度も聞き、彼女の高い芸術性にも感動しました。
岸田今日子の父親、岸田国士(くにお)は劇作家で「飯田の町に寄す」という名詩を残しています。

飯田 美しい町 
山ちかく 水にのぞみ 
空あかるく風にほやかなる町

飯田 静かなる町 
人みな言葉やわらかに 
物音 ちまたにたたず 
粛然として古城の如くたつ町

飯田 天竜と赤石の娘 
おんみさかしく みめよく育ちたれど 
いま新しき時代に生きんとす 
よそほいは かたちにあらず 

美しく静かに 
ゆかしく 豊かに 
おんみの心をこそ 新しくよそおいたまえ

この詩の通り、いまでも飯田は美しく、静かな街です。

「銀河鉄道の夜」は二人の男の子の友情と献身の物語です。
人間の幸福とは何かを生涯考え、自分を捨てて、人のために尽くすことを実践し
学校の先生を止めて、農民の一人となって農業の指導をし、死の当日まで農民の相談にたずさわり、過労で死ぬのですが
その間、感性豊かな多くの詩や童話や小説を書いたのです。
多くの文章の中に、宇宙についての記述が見られ、この「銀河鉄道の夜」でも、天の川の星座や星が駅名やエピソードとして語られています。
この物語の初めに、理科の先生が天の川の説明をしますが
今から約100年前、人々はどんな宇宙観を持っていたかが分かり、現在のめざましい宇宙観と比較すると面白いと思います。

3.三つ目は、NHKのDVD「ハップル宇宙望遠鏡が見た宇宙」で見たハップルディープヒィールド(銀河の動物園)です。

百年前、宮沢賢治が「銀河鉄道の夜」の午後の授業で教えている宇宙は天の川銀河ただ一つと思われていますが
現在はこうした銀河が100億光年の彼方に数千億個も群れているのが
巨大望遠鏡や電波望遠鏡で撮影できるのです。こうした映像を見て、何も感じない人はいないでしょう。
この感動を感受性の強い高校生に伝えたいと強く思うに至りました。
それから私は現代天文学に強い興味を抱き、それに関する色々の本を読みあさりました。
そして宇宙を知るには、宇宙の法則を理解する必要を感じたのです。
宇宙を支配する法則はニュートンの物理学の他に、相対論と量子論を理解することの必要性を痛感しました。
それで以下のような文献や参考書を次々と読み進んでいったのです。

4.四つ目は飯田信用金庫が、飯田市に寄贈された「超電導ジェットコースター」です。

超電導体とは、極低温において電気抵抗がゼロになる物質をいい、超電導体で巻かれたコイルには
数百アンペアもの大電流を流すことができるので
重い列車を10cmも持ち上げて走行する強力な磁界を作ることもできます。
JRの甲府の実験線ではすでに時速500kmを超す列車が完成しました。
また超電導の性質として、マイスナー効果といって強力な磁石を強い磁界で取り囲んで
空中に浮遊させる性質もあります。
「超電導ジェットコースター」はその性質を使って、メビュースの帯状に曲げられた鉄のレールの上に
日本で作られた世界最強のネオジム磁石を二千個張りつけ
その上に液体窒素で冷却された超電導体を乗せて、空中に浮上させて走らせるものです。
指で押していったん走りだすと、そのコースターは無摩擦の空間を数十メートルも
温度が上がって、超電導状態がなくなるまで、高速でレールの上を走り回ります。
こうした不思議で面白い現象はめったに見られるものでなく
この装置は自冶体としては全国で飯田市にしかないもので、21世紀の先端技術を理解するために
高校生としてぜひ見て、そうした原理を考えて戴きたいと思います。
宇宙の温度は超低温であり、木星などは地球の磁場の100倍程強い磁場を持つと言われています。
こうした温度と磁場の強い場所に、この超電導でできた車を持っていったらどうなるでしょうか。
宇宙で実験してみたいと思いませんか。

参考図書とCDとDVDとビデオテープ
コペルニクス著「天体の回転について」岩波文庫
ガリレオ著「星界の報告」岩波文庫
アインシュタイン著「相対性理論」岩波文庫
ハップル著「銀河の世界」岩波文庫
ウッドベリー著「パロマーの巨人望遠鏡」(上・下)岩波文庫
DVD「ハップル宇宙望遠鏡が見た宇宙」NHK
エレイン・スコット著「ハップル宇宙望遠鏡」筑摩書房
野本陽代著「ハップル望遠鏡の宇宙遺産」岩波新書
戸田盛和著「アインシュタイン16才の夢」岩波ジュニア新書
矢野健太郎著「アインシュタインの不思議な世界」NHK ブックス ジュニア
DVD「キュリー夫人」(1943年のアメリカ映画・伝記映画の最高峰)

私はこの映画を終戦後しばらくして見たとき、大きな感動を受けました。
将来科学者を志望していたために、余計大きな影響を受けたものとおもいます。
ピエール・キュリーの不器用な、しかし微笑ましい恋愛、それに答えるマリーの優しさ
結婚後の育児と雨の漏る古い研究室での長年の実験で示される数々の苦境に立ち向かう二人の科学への情熱
ラジウムの放射能発見の感動的シーン、私が今までに見た最高の映画です。

高木仁三郎著「マリー・キュリーが考えたこと」岩波ジュニア新書
松岡洋子著「キュリー夫人」旺文社文庫

キュリー夫人は放射能としてのラジウムの発見者としてだけでなく
素晴らしい科学者としてぜひ知ってほしいために映画をいれました。
この映画が終戦直後日本で上映されたとき、私は感動し、教師になってから、放射線の研究に入り
霧箱を作って放射線の飛跡の観察をしたり、「ヨーロッパ科学博物館ツァー」を組んで
多くの先生方とフランスのキュリー研究所を尋ねて、キュリー夫人の実験室や遺品を見てきました。

カール・セーガン著「惑星へ」(上・下)朝日新聞
カール・セーガン著「COSMOS」(上・下)朝日新聞
コスモス宇宙Ⅰ「地球と銀河を結ぶ80億光年の旅」旺文社
コスモス宇宙Ⅱ「宇宙にただよう惑星と彗星」   同
コスモス宇宙Ⅲ「人類と宇宙のかかわりあい」   同
コスモス宇宙Ⅳ「果てしない宇宙へ向かって」   同
カール・セーガン著「コンタクト」(上・下)新潮社
ビデオテープ「コンタクト」(アメリカ映画)

カール・セーガンはアメリカの天文学者で、このコスモス宇宙は世界中のテレビで流されたもので
その内容を旺文社がまとめたものです。
また小説「コンタクト」は女流天文学者がこと座の星ベガ(織姫星)とコンタクトを取るというSFです。
しかし現在、殆どの天文学者は宇宙のどこかには必ず文明人がいると信じています。

井田屋文夫著「図解雑学・物理のしくみ」ナツメ社
和田純夫著「図解雑学・相対性理論」  同
佐藤健二著「図解雑学・量子力学」   同
二間瀬敏史著「図解雑学・宇宙論」   同
二間瀬敏史著「図解雑学・巨大望遠鏡で探る宇宙」同
大塚明郎・手塚治虫監修「まんが アトム博士の科学探検」東陽出版
大塚明郎・石ノ森章太郎監修「まんが アトム博士の電磁気学入門」同
大塚明郎・手塚治虫監修「まんが アトム博士の相対性理論」同
大塚明郎・石ノ森章太郎監修「まんが アトム博士の続相対性理論」同
大塚明郎・石ノ森章太郎監修「まんが アトム博士の宇宙探検」同

このアトム博士のまんがシリーズを監修しておられる大塚明郎先生(故人)が
日本物理教育学会の会長をしておられるとき、私は副会長として一緒に働き
いま日本各地で行われている「青少年のための科学の祭典」を立ち上げました。
とても立派な方です。
またまんがの監修は手塚治虫さんと石ノ森章太郎さんで、いずれも大変優れた方々です。
この本は、まんがで描かれていますが、内容はかなり正確で分かり易く、楽しく読んでいるうちに
ニュートンの物理学(高校で学習)、相対性理論、量子論などの原理が確実に身についていくとても素晴らしい本です。

宮沢賢治著 宮沢賢治童話大全 講談社
藤井旭 賢治の見た星空 作品社
宮沢賢治著 賢治宇宙 パロル社
日本文学全集 宮沢賢治 講談社
新文芸読本 宮沢賢治 河出書房新社
西田良子 宮沢賢治を読む 創元社
宮沢賢治 銀河鉄道の夜 講談社
宮沢賢治キーワード図鑑 平凡社
その他、超電導や星座や宇宙に関する本

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