(朝日新聞 オーサービジット中高校編 2008年春号掲載)
さまざまな分野の本の著者が学校を訪れ、出張授業をする「オーサービジット2007」(朝日新聞社主催)が全国各地で行われています。『子どもにウケる科学手品77』『理科授業に使える面白クイズ』などの著書がある後藤先生が1月31日、飯田高校を訪問し特別授業が行われました。その様子を紹介します。
朝日新聞 オーサービジット
長野県立飯田高等学校
あの疑問、この疑問解くのは君たちだ
答えを見つけだすそれが学ぶ喜び
「あ! 空中に浮いたまま走ってる」
長野県飯田高校。
科学ジャーナリスト、後藤道夫さんを迎えた授業で、2年F組の41人(担任・木村哲先生)はどよめいた。
テーブル上の実験装置「超伝導ジェットコースター」では、白い煙をたなびかせて、消しゴム大の超伝導体が、レールの上を疾走しているのだ。
超伝導体とは、超低温まで冷却すると、電気抵抗がゼロになる物質のこと。
特殊な磁石を貼り付けた鉄製のレール上に乗せると、1センチほど浮いて高速で走り抜けていくのだ。それだけではない。
レールは途中でねじれ、裏表が逆になる「メビウスの輪」状になっているが、超伝導体は逆さになっても落下せず走り続ける。
「なで浮くの?なぜ落ちないの?」生徒たちは大騒ぎ。
種明かしを期待して後藤さんを見つめるが、後藤さんは無言でニコニコするばかり。すぐに次の実験にとりかかった。
砕いたドライアイスをビニール製のチューブに入れ、その両端を万力で締める、という実験だ。
ドライアイスは二酸化炭素が凍ったもの。常温では白煙を上げて、あっという間に気体になってしまう。だからチューブはみるみる膨らみだす。
中でどんどん気化しているのだ。
ところがチューブの膨張が限界に近付いたころ、中に二酸化炭素の液体らしいものが溜まりだした。
「これにはチューブ内の圧力が関係しています」と後藤さん。が、十分な説明はここでもない。そして話は宇宙空間へと移ってゆく。
「火星の極冠には、ドライアイスが含まれていると考えられています。
どれだけ寒いかがわかりますね。また、木星は地球の100倍を超える磁場を持つと言われています」。
ハッブル宇宙望遠鏡によって撮影された星の写真を見ながら、後藤さんが語る。
生徒たちに、後藤さん手作りの星座早見表が配られる。
後藤さんの指示で、天の川周辺の星座をたどっていると、ふいに、宮澤賢治の「銀河鉄道の夜」を朗読するCDが。
またまた意外な展開だ!
「超低温で強い磁場を持つ宇宙に、超伝導体でできた列車を持っていったらどうなるでしょう?
さっきの超伝導ジェットコースターの実験を大がかりに宇宙でしたらどうなるのか。まるで「銀河鉄道」のようじゃありませんか?」
後藤さんの言葉に、さきほどの超伝導体が、宇宙の闇を貫いて疾走するイメージが浮かんだ。
いったいその物体はどこを目指すのか?宇宙空間には、そのような物質の疾走が実際にあるのだろうか?
しかし、後藤さんは答えない。
「今日の授業で君たちの中に生まれた疑問を解決するのは、君たち自身」と、超伝導や相対性理論などの専門書、宮澤賢治の作品など、後藤さんが昨年1年間に読んだという200冊を超える本を、クラスにプレゼントしてくれた。
「本が解決の手助けをしてくれる。多くの疑問を経て答えにたどり着くからこそ、学ぶ喜びがあるんだ」。
(朝日新聞 オーサービジット中高校編 2008年春号掲載)
※ この記事は朝日新聞社様のご協力をいただいて掲載しています。